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「戦の翌日」
 
 
昨夜からずっと、ひどい土砂降りだ。
窓の外は視界不良で一面灰色。ザーザーとうるさい雨音以外、何もない。
「雨、やまないね」
傍らの大倶利伽羅に声をかける。
返事はない。

昨日の夜戦でひどい怪我を負った彼は、ついさっきまで手入れ部屋にいた。
明け方に彼を運び込んで、解放されたのは昼もだいぶ回ったころだ。
しばらく安静にするように、との注意付きで。おそらく手入れ部屋が不足しているので、ちょっとはやく出されたのだろう。

ふらふらの状態の彼を抱きかかえて部屋まで連れてくると、「少し寝る」というので床の用意をして、夜着に着替えさせ、その体を横たえた。
それが1時間ほど前のことだ。まだ、彼は眠り続けている。

手入れで傷はふさがっているものの、彼の体にはまだ赤く生々しい傷跡が全身に広がっている。
昨夜はこんな体で先陣を切って敵を切り伏せていたのか。辛くても、それを気づかせないようにふるまっていたのだろう。
こんな状態になる前に撤退してもよかったのではないか。でも、撤退を進言してもそっけなく断るのが彼の性格だった。

彼は生まれてから、ずっと戦場で生きてきた。刀とは本来そういうもの。
後に続く味方のために、目の前の敵はすべて切らねば気がすまない。倒れるまで。そんな男だ。
僕とは生き方が違った。でも、それは仕方ないだろう。彼は、そういうふうにしか生きてこなかったのだから。

「よく、がんばったね」
髪をそっとなでる。ただ静かに眠る彼の表情は普段よりずっと幼い。
いつものはりつめた空気を取り去ってしまうと、こんなにもはかなげになってしまうのか。

彼の生き方はあまりにもまっすぐで不器用だ。
刀としての信念のためなら、自身はどれほど傷ついてもいい。そうやって、ずっと生きてきたのだ。
今までの長い人生の中で、いったいどれほどの傷を負って、それに耐えてきたのだろう。

雨は降り続く。彼にとって人生とは、雨のようにふりそそぐ試練や困難にただ愚直にぶつかっていくことことなのかもしれない。
それがあたりまえのことなのかもしれない。防ぐ必要はなく、防ぎ方も知らないのかもしれない。

それでも、僕は思う。彼には傘が必要だ。
自らを削るような生き方をする彼がこれ以上傷つくことのないように、彼を守るための、傘が。
傷ついた心や体をいやす場所となりえるような、大きな傘が。
願わくば、その傘に僕はなりたいんだ。