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「葉桜の頃」2

帰り際、廊下で会った太鼓鐘貞宗に遊びに誘われたが断った。
不服そうな貞宗に、また明日ね、といって別れた。
絶対だよ!っと強い瞳でこちらを見てくる彼を見るに、明日は絶対付き合ってやらないといけないようだ。

1.
付喪神たちは別段部屋を決められているわけではない。屋敷内だったら好きな場所に行けるので、それぞれが勝手に居たい場所を自室と決めているだけだ。
ただ、本体である刀からあまりに離れることは避ける者が多い。
本体から離れすぎると力が弱まるし、何しろ不安なのだろう。自分のよりどころをほっぽって置くのは。
本体が傷つけられれば痛いし、破壊されれば最悪消えてしまう。
神、と一応名がついているものの、はかない存在であるのだ。

僕の自室は他の刀たちとは少し離れたところにあった。新入りであったため、空いている部屋のうち、居心地の良さそうなところを選ぶと、自然とそうなってしまったのだ。そこは古い造りの離れで、時々掃除に入る女中が出入りする以外は静かであった。

その自室に戻るとそっと襖を閉める。一呼吸息を吸うと、急に疲れが押し寄せてきた。
近くの壁にもたれて、ずるずるとへたり込む。

さっきのあれはなんだったのだろう。
書庫でのことだ。大倶利伽羅に先日の非礼を詫びた。許してもらえるはずもないと思っていた。彼も、簡単に許せるものではないと、そういっていたのに。
なんで、あんなことしたのかな。
その褐色の腕に突然抱きしめられた時、最初は恐ろしかった。
まず理由が分からなかった。だから抵抗した。

ただ、その腕に包まれていると、荒れてかさかさになった心が段々と落ち着いていくのを感じた。
普段隠しているどろどろとした感情。それが、少しずつではあるが自分の外に流れ出してゆく。心が楽になってゆく。

そうしたら何故だか涙があふれ出してきて、止まらなくなった。
彼の胸にすがって、みっともなく泣き続ける僕の背中を、武骨な手が撫でてくれている。
ぎこちない動きだったけど、その手は温かくて 、何だか安心した。
本当はずっとあのままその腕の中にいたかった。
放してもらったのは、すっかり相手の好意に甘えている自分が恥ずかしかったからだ。
感情を制御できず相手にすがって泣いて、慰められて。思い出すと今でも恥ずかしくて死にそうになる。

そして、戻ってきたのがいまさっきのこと。
結局許してはもらえなかった。分かっていたことだ。
でも、あの腕の温もり。それは今回の行いも含め、僕という存在を受け入れてくれているように感じられた。
全てを包み込んでくれそうな温かさ。彼の腕の中は落ち着いて、自分でいられる場所。そんな感じがした。
あの腕にもう一度触れられたい。熱を感じたい。そう望んでいる自分に気づき、愕然とする。

表面的な付き合いは得意な方であったが、今まで特定の誰かに対して、自分からそれ以上を、さらに踏み込んだ関係を望むのは、経験のないことだった。
様々な主の元を渡り歩くような生き方だったから、そもそも一つの家に長くいたことがない。
だから、他人との付き合いにおいては努めて軽い関係に留めて来た自覚はある。
別れても悲しくない程度に。それにもし必要以上に親しくなってしまえば、いずれ心の中の見せたくない部分まで見られてしまうかもしれない。それは避けたかった。
彼に言われた言葉を思い出す。

もっとその本心を見せてくれ。

そんなみっともないことはしたくない、という気持ちと、その言葉に甘えてしまいたいという気持ちの間で揺れ動く。

僕の本心。はっきりいって醜い。

見目が少しばかり良かったせいで、また、名を馳せた刀工の作だということで、僕の本体は今まで多くの人間にその姿を称賛され、求められてきた。
しかし歴代の主たちは大切にしまうか、飾るだけで、僕に刀としての実用性を求めることはしなかった。
戯れに時々人を斬るのに使われたりするものの、戦に持ち出された経験はない。
刀として生まれた以上、戦場で振るわれることこそ本分とする僕にとって、それはいつも心の中に燻る不満となっていた。僕も実戦刀になりたい。いつもそう願っていた。

今まで出会った実戦刀達の姿を思い浮かべる。
彼らは皆輝いて見えた。
使い込まれた刀身。無骨なつくりで所々傷があったりもする。
しかし、持ち主の手にすっかり馴染み、まるでその腕の一部のように見えるその姿、刀としての矜持を持ち、自信にあふれた姿は、憧れだった。
刀は主を守り、主は刀に全幅の信頼を置いて命を預ける。
そんな強い絆が、羨ましかった。
一方自分はと言えば、確かに見目の良さで大切にされはするものの、実戦刀とその持ち主のような関係は、今まで築けたことはなかった。
外見をちやほやされるだけ。戦利品のようなもの。それが寂しかった。
自分の中で割り切るように努力はしていたつもりだ。
所詮自分は飾り刀なのだ。彼らとは生まれが違う。それらしく生きていけばいい。
ただ、時々彼らに対する憧れが度を越して、自分の中でくろいどろどろとした感情を呼び起こすことがあった。
醜い。それは分かっている。ただ、止めることができない。

彼もそんな感情を呼び覚ます対象の一人だ。
その刀身に彫られた倶利伽羅竜、通常傷跡隠しに彫られる飾りが、それほどまでにたくさんの修羅場を潜ってきた証しに見えた。
馴れ合いを好まないが、決して孤立しているわけではない。彼を慕っている刀達は多かった。
そして、寡黙ではあるが、言うべきときには口を出す。そんな態度は調子よく軽口ばかり叩いている自分と違って、格好良く感じられた。
彼の口から戦場での話が出ることはそれほどなかったが、僕が聞きたがると彼は言葉少なに語ってくれた。
それは実体験であるがゆえの臨場感があった。
彼の話に僕は引き込まれ、気づけば彼とよく話すようになるまで時間はかからなかった。

共に過ごす時間が長くなり、沈黙が苦にならなくなった頃のことだ。
「君はすごいね」
ふと、口をついてこんな言葉が出た。
すると彼は「俺にはそれしかなかったからな」と、しごく当然のように言った。
その時からかもしれない。彼に対する無邪気な憧れの中に黒い感情が混じるようになったのは。
自分が元々持ちえなかった体験、それを、それしかなかったからと日常として語る男。
でも、その、それしかない体験が僕にとっては喉から手が出るほどほしいものだったのだ。

初めて号をもらったのは、今の主の手に渡ってからだ。
自分たちはモノであるから、みずから号を名乗ることはできない。だから、そのことは純粋に嬉しかった。
人と一緒に青銅の燭台も斬ってしまったから燭台切。これは切れ味を認められた証だ。ただの光忠の太刀ではなくなったのだ。

しかし、それだけだ。その先を自分は欲している。
この切れ味をもっと生かしてほしい。

もっと切れる。もっともっと切れる。そこら辺の太刀とは違うのだから。もっともっと使って。振るって。
血まみれにさせて。ぼろぼろに傷付くまで、僕を使ってよ。

そういった願いは、生まれては行くあてもなく、自分の中に澱となって溜まっていった。
叶わない願いは絶望に形を変える。
その暗い絶望に心が支配され、どうしようもなくなることが時々あった。

実戦刀たちだけの共通の話題をにこにこしながら聞いている時。
「あいつは折れる心配がなくていいな」と、実戦刀たちに陰で言われていることを知った時。
ようするに劣等感を刺激されるような場面に出くわした時。
僕は叫びだしたくなる衝動にかられるようになった。
僕だって君たちみたいになりたい! 君たちと変わってよ!
もちろん実行したことはない。
そんな子どもじみた醜い感情を、嫉妬を、人前に出す事なんて考えるだけで恐ろしい。だから、今までは何とか抑え込んでいたのだ。

だから、どうして大倶利伽羅に対してあんなことをしてしまったのかは自分でも分からない。
あの時は自分の中の化け物のような部分にすっかり支配されて、暗い衝動に身をまかせてしまった。
ただ、彼にどこかで救いを求めていたのかもしれない。
自分を知ってほしかったのかもしれない。
少しでいいから理解してほしかったのかもしれない。
きっと、彼ならそれができると無意識に思い込んでいたのかもしれない。

でも、これ以上は、無理だ。

諦めている。この醜さの全てをさらけ出したら、きっと心は楽になるだろう。
しかし、彼は幻滅するのではないか。僕の心の全てを知ったら。
僕の愛想のよい上っ面の中にはどろどろした黒い感情がぎっしり詰まっていることを知られたら。
心の中にあるのはそんなものばかりだ。汚くて重たい、泥のようなものがいつも溜まっている。
彼がそれを知ったら、温もりを与える価値なんてない存在だと、救いようのない存在だと、僕を見限るかもしれない。

ふと、明り取りの隙間から外を見ると、細い月が輝いているのが見えた。
冷たくて静かな光が入り込んで、室内を照らしている。
彼も、この月を見ているのだろうか。そんな思いが頭に浮かんでしまう。
ああ、本当にさっきから彼の事ばかり考えている。
なぜあんなに彼に執着する?少しばかり情をかけられたから?
理解されなくてそんなに寂しかった?
自問自答しても答えは出ない。
今日の自分は少しおかしい。休んだ方がいい。
そう思って瞼を閉じて横になった 。
僕達に睡眠は必須ではない。
ただ、疲れた時、傷付いた時には休息が必要だ。
今はまさにその時で、とにかく眠りたかった 。考えることをやめたかった。

2.
翌日。
太鼓鐘貞宗が仔馬を見たいというので一緒に馬小屋まで行った。
先日生まれたばかりだと主が話しているのを聞き、見てみたくなったのだと言う。
僕を誘わなくてもよさそうな用事であったが、馬は感が鋭い。
貞宗の存在を感知し、やたら警戒する馬がいることは聞いていた。
貞宗を持ってその馬に乗ろうとする人間は、大変な目に合うとか。
それが嫌だから他の付喪神と一緒に行きたいのかもしれない。そうすれば貞宗が単独で行くより、彼の気配を悟りにくくなる。

「ねえ、みっちゃんは馬好き?」
馬小屋へ向かう道すがら、貞宗があどけない口調で話しかけてくる。
「そうだなあ、嫌いではないかな」
そう返すと、貞宗は馬の魅力について延々と熱く語ってくれた。
この子は動物が本当に好きだ。
犬やら猫やら見かけると追いかけているが、時々相手に警戒されて、逃げられては落胆している。
人ではない存在だからか。本人に悪意はないのに、かわいそうに。
「それでね、生まれた仔馬は白くて黒いまだらがあるんだってさ」
「そっか。屋敷にいる猫みたいな柄なのかな。ハチワレの」
「いや、クロちゃんよりは白いところが多いみたいだよ」
あの猫の名前はクロというのか。
貞宗が時々追いかけては威嚇されている雌猫の姿が思い浮かんだ。
ほほえましい気持ちになり、つい笑みが浮かんでしまう。
「何笑ってるのさ」
貞宗が頬を膨らますのが可愛らしい。
今日は平和だ。
天気が良くて、風もまだ冷たくなくて、小道には所々名前の分からない秋の草花が咲いている。気持ちのいい日だ。
昨日のことさえなければ、僕はもっと素直に今日という日を楽しんだだろう。
やがて馬小屋に着いた。仔馬は真っ白で所々に黒い斑点のある模様で、母馬に寄り添う姿はなかなか可愛らしいものだった。
貞宗は興奮して触ろうとするので僕は腕を掴んで止めた。
母馬はどうやらこちらに気付いており、あからさまに警戒はしないものの、僕たちから目を離さなかったからだ。
「さだちゃん、母馬が警戒してるよ。戻ろうか」
そう伝えると、渋々といった感じで諦める。

帰り道。
「ねえ、みっちゃんは好きなものってあるの?」
思わず隣の貞宗の顔を伺う。いつもと同じような表情。
「さだちゃん、どうしたの?そんなこと聞くなんて」
動揺を顔に出さないよう努力したつもりだが、端から見たらどうだか分からない。
貞宗は何の含みもない顔でこう返した。
「別に。さっきのお母さん馬が子どもを大切に守っていたからさ。子どもの事が大事で大好きなんだと思って。ちょっと気になっただけ」
「そっか」
動物が子を大切にするのは本能で、好きとか嫌いって感情はないんじゃないかな、なんてつまらないことは言えない雰囲気だ。
微妙な間が空く。ひたすら僕たちは来た道を戻っている 。
「あのね」
貞宗が普段とは違う重みのある声で沈黙を破る。
「もし、今そういうものがあるなら、その気持ちに正直になりなよ」
そういって僕を見つめる彼の目は真剣だ。
「え?あ、ありがと…」
彼は姿こそ子どもであったが、それは年若いということを必ずしも意味しない。
こちらを見抜いているような言葉にその事を実感する。
「ああごめん、変なこと言っちゃったかも。でも、みっちゃんって、好きなものとか欲しいものがあっても、何も持たないようにしてる感じがするからさ」
つないだ手をぶんぶんと振りながらそういう貞宗は、また子どもの仮面をかぶり、もうトンボがいるよ!っと叫びながら、僕の手を放し、虫を追いかけはじめた。
置いていかれた僕は、かけられた言葉を反芻する。

僕の好きなもの。欲しいもの。
昨日の事が思い浮かぶが、あわてて打ち消す。
それはまだ、自分の中で答えが出ていないものだ。
あえて分類するとすれば、そういったものになりうる芽のようなもの。
これが育つか枯れるかはまだ分からない。

3.
しばらくは平穏な日々が続く。
先日以降、大倶利伽羅と僕は普通に接していたが、先日の件はなかったことのように深入りはしないでいた。
ある日のことだ。
僕は自室前の縁側に座り、ぼんやりとしていた。
この家に来て初めての秋を迎えるが、北国の秋は早い。
既に庭の木々も紅葉を迎えている。
赤や黄に染まった葉を日光がきらきらと照らしていて、まるでそこだけ世界が違うみたいに美しかったので、それを眺めていたのだ。
だから、彼が近づいてきたのにも気づかなかったし、声をかけられた時は動揺した。
「え?」
振り返ると、縁側に大倶利伽羅が立っていた。
「ここにいたんだな」
相変わらず愛想のない声音でつぶやくようにいうと、勝手に隣に座った。
彼らしい行動に笑ってしまう。
「久しぶりだね」
こちらから声をかけると、ああ、と返事をする。そっけない。
いつも通りだ。
それから、少し、世間話をした。
お互い、それ以上に踏み込まないように注意深く言葉を選んでいる。
あれ以来、二人っきりで話すのは初めてかもしれない。だから、どことなくぎこちない会話を続けている。
その時、秋風が吹きつけて、庭をかき乱した。
強い秋風だ。砂埃がわあっと舞って視界が曇り、落葉もふわっと舞い上がる。
それは秋の嵐みたいで美しかった。
ほんとうにきれいだったから、隣に座る彼にその感動を伝えようとして。

伝えようとしたはずだった。
それは言葉になることはなかった。
きらきらとした金色の目。それが僕の目を覗き込むようにじっと見つめている。
その視線の真摯さはまるで矢のように僕を縫いとめる。動きを止められる。
彼の両手が僕の肩をそっと掴んだ。
その手から伝わる熱の心地よさは、僕の感覚を麻痺させる。
「光忠」
僕の名前を呼ぶ。その低い声はあくまで優しくて、穏やかだ。
「あの、何かな?」
混ぜっ返そうとする試みは、かすれた声になってしまって、うまくいかなかった。
そのまま、沈黙が訪れる。
彼の金色の目の中に、自分が写りこんでいるのが見える。
おそらく、僕の目にも彼が写りこんでいるのだろう。
じっと、互いの目を見つめたまま、このまま石像にでもなってしまうのかと思うほどの体感時間が過ぎた頃。
大倶利伽羅が肩に置いた手をはずし、僕の背中に腕を回す。
そのまま腕に力を込める。僕の体は彼に抱きしめられた形となった。以前と同じように。
違うのは、腕に強い力が込められていることだ。

「俺は、あんたの事を大切にしたいと思っている」
僕の肩に顎をもたせ掛けて、彼は耳元でそうささやく。
「辛いなら、その辛さを代わってやりたいと思うし、幸せにできるならしてやりたいと思ってる」
僕の言葉を待たずに、さらに続ける。
「迷惑かもしれない。でも、あんたの辛さに触れた時、そう思った。その生きづらさを何とかするのは、難しいかもしれない。でも、俺にその手助けをさせてほしい」
その言葉は重たい。今までそんなこと言われたことなかったから。何て言っていいのか。
「大倶利伽羅君…」
「だから、あんたの全てを知りたい」
「全て?」
「ああ、全てだ」
それは困る。
「僕のことなんて知ったって、つまらないだけだよ。大体、僕は醜い」
「そんなことない」
「ほんとだってば。僕は実戦刀に憧れてばかりで、醜い感情をつのらせて。愛想の良さで表面を取り繕ってるだけなんだ。だから、僕の本心なんて」
僕の返答に、彼はめげなかった。真実を告げたのに、まだ食い下がる。
「あんたが醜いとする、その感情も含めて、好きなんだ」
「え?」
その答えは想定外で、あっけにとられてしまう。
「その、自分の境遇に抗おうとする姿勢は、醜くなんてない。刀らしい」
そういえば、以前もそのようなことを言っていた気がする。
僕としては、そう言われても困惑するだけなのだけど。
「前もそんなこといってたよね」
「俺は、あんたが嫌う部分も含めて、あんたそのものに魅了されてるんだ」
声が一段と低くなる。
「でも」
彼の言葉を信じられないわけではない。ただ、今まで言われたことがないから、つい、否定の言葉を発してしまう。それが不安なのか。彼は問う。
「嫌か?」
「そんなことない。僕だって、君に惹かれてる。その腕に、もう一度抱きしめられたいって思ってた。だから、願いがかなって、そんな風に言われて、混乱しているんだ」
「嫌じゃないのか?」
少し、不安げな表情を浮かべる彼を安心させたくて、できる限り力強い声で答える。
「嫌じゃないよ」
笑顔はこわばっていたかもしれないけれど。それは嫌なわけじゃなくて、緊張していたからだ。
「…じゃあ」
彼を安心させたくて、彼の背中に腕を回す。温かい。安心できる熱だ。
「僕もだよ。僕も好きなんだよ、君が」
そう、彼の耳元でささやく。
彼からの返答はなかったが、背中に回された腕に込められた力が、さらに強まるのを感じた。苦しいくらいに。
「ちょっと、苦しいんだけど」
苦言をもらすと、彼は、悪い、といって少し力を弱める。
彼の腕は本当に心地よい。
その熱と力強さは、僕の悩みなど消し去ってしまうみたいで、この腕に包まれている間はその苦痛から逃れられる。
この腕は、救う腕なのだ。
おそらく、僕だけではない。彼は、今まで多くを救ってきたのだ。
彼の熱の中で、ただそれだけを思った。